本当のエステ
聖ガンジスのように
18.02.03
シエナの別館にある資料室では、
ゲストのカルテが壁一面を占め厳重に管理されている。
今回新しい顧客システムを導入するため、
過去のデーターを移行する必要があり、
スタッフだけでは追いつかず、
わたしも慣れない手つきで顧客データーを入力していた。
<職業欄>
会社員、事務、金融関係、デザイナー、営業職、
楽団員、NPO、主婦、経営者、ダンサー、
医師、歌手、弁護士、学生、アナウンサー、教師、
公務員、研究職、自衛官、サービス業、
客室乗務員、看護師、作家、自営業、投資家、
など、など、など、・・・、
ない職業を探す方が早いくらいだ。
この20年ほどの間に、シエナと縁を持ってくれたお客様たちだ。
<契約日>
20△△/〇月/〇日、期限20△△/〇月/〇日、
チケット数52回、来店回数43回、
<備考>
5年前までインドで数年間暮らしていました、
久しぶりに友達が会いに来る。
そうなんだぁ・・・・・・、
その人がなぜシエナに来てくれたのかを見ていると、
私の手が止まるので、なかなか作業が進まない。
会社経営をしていると
様々なコンサルタントと付き合う。
成功するには、あれやこれやに気を付け、
あんな事やこんな事をするべきだ、と説く。
ナルホドとも思う、確かにそこが欠けていたとか、
これからそうしようとか、
いろいろ勉強になる事もある。
でも私はいつも思う、
人の来店動機はコントロール出来ないのだと。
なぜ人はエステに来るのだろう・・・・・・。
ひとは、幸せになる方法なら、
本当は知っているはずだ。
お金なら、
収入以上に使わず、
コツコツ良い金融商品で、
老後心配ないレベルまで増やせば良い。
健康なら、
早寝早起き、運動と栄養を考えた食事、
ストレスを溜めずあらゆるケアをすれば良い。
人間関係なら、
トラブルのない精神的に安定した人と付き合い、
その中から将来不安のない
素敵なパートナーを選べばいいのだ。
ただ、ひとは、それをしないのだろう。
別にコンサルタントに言われなくても、
誰もがそれを「やろうとはした」のだろう。
でも、その通りには出来なかったのだろう。
自分の中にある、
自分でも気づかない「何か」に突き動かされ、
時間どおりに起きたり出来ず、
予定にない出費をして、
こんなはずじゃなかった風な恋もしてみたり、
食べ過ぎたり、裏切られたり、
飲み過ぎたり、騙されたり、
それでも懸命に生きて、働いて、
笑ったり、怒ったり、
夢を見たり、泣いたりして、
今の夫と出会い、
気付いたら、毎日追われるように子育てしていて、
子供のために早起きしてお弁当は作るけど、
自分のためには運動したりは出来ず、
子供の手が離れた頃、鏡に映る自分が、
雑誌の女性と少し違う気がして、
駅の階段でため息をついた時、
それまで素通りしていた看板に、
ふと目がとまったのかも知れない。
そしてある日、インドから連絡がきて、
友達と5年ぶりに会う約束をしたのだ。
誰にでも、
この世のすべてを飲み込み、
ゆったりと流れてゆく深い河が必要なのではないだろうか?
だからシエナに来てくれたのではないだろうか?