散歩シリーズ
輝きが消えるとき
18.02.03
雪が降ると散歩が出来ない、けれど想い出す。
家々の屋根が白くなると「蒲原」を想い出すのは私だけなのかも知れない。
小学生の頃、子供たちの間ではなぜか切手集めが流行った。
数少ない手持ちの切手をコレクションシートに入れ、
毎日眺め、順番を入れ替え、並べ方を工夫して、翌日学校へ持ってゆく。
休み時間になると、コレクションを交換したり自慢し合っったりしていた。
なんであんなに夢中になっていたのだろう?
生まれて初めて、何かをコレクションするという「ちょっと大人な行為」に、
それまでの子供の遊びとは違う新しい喜びを見出していたのかも知れない。
子供の集中力は凄いもので、日曜日になると1時間かけて自転車で吉祥寺へ行き、
切手売り場のガラスケースを食い入るようにいつまでも眺めていた。
新しい切手の発売日には朝から郵便局に並んで買ったこともあった。
その中の憧れの一枚が東海道五十三次(国際文通習慣)の「蒲原」だった。
小学生に買える代物ではない。今でも一枚2~3万円するらしい。
そのほんの小さな紙切れは、ガラスケースの中で燦然と輝いていた。
実は、ひとりだけクラスに「蒲原」を持っている女の子がいた。
普段目立たなかった子が、蒲原一枚で皆の注目を集める存在になったのだ。
でもいつの頃か、私もみんなも切手集めをやめてしまった。
あんなに夢中になっていたのに・・・。
今となっては、その理由は蒲原に積もる雪の下だ。
もしかしたら、みんなの気持ちが切手より、
野球へと傾いていったからかも知れない。
学校から帰るとユニフォームに着替え自転車で空き地へ向かう。
空き地に着くと背番号3番だらけだった、あの頃3番は燦然と輝いていたのだ。
あるいは、切手が輝きを失ってしまったのは、
蒲原を持っていた女の子のお父さんが、郵便局員だと皆が知ったからかも知れない。